不倫慰謝料の時効はいつ切れる?請求期限と注意点をまとめて分かりやすく解説
不倫慰謝料には、一定の期間が過ぎると請求できなくなる「時効」があります。
時効がいつから始まるのか、どの段階で成立するのかは、とても迷いやすいポイントです。感情的な衝撃が大きい出来事だからこそ、冷静に整理しておくことが大切になります。
この記事では、不倫慰謝料の時効の仕組みや注意点、時効を止める方法まで、初めての方にもわかりやすい形でまとめました。
目次
1. 不倫の慰謝料の時効は何年?
不倫の慰謝料にも、時効はあります。
不倫の慰謝料は、法律上は「損害賠償請求」です。
損害賠償請求では、決められた期間が過ぎてしまうと請求が認められなくなります。これを消滅時効といいます。
つまり、不倫の被害を受けたからといって、慰謝料を請求する権利がいつまでも続くわけではないのです。
慰謝料の請求を考えている場合は、いつまでに慰謝料を請求する必要があるのか、早いうちに確認しておきましょう。
1-1. 不倫慰謝料が請求できなくなる期間|3年または20年
不倫慰謝料は、下記いずれかのうち先に到来する期間が過ぎた時点で、消滅時効が成立して請求が出来なくなります。
①不倫の事実と加害者を知った時から3年
②不倫があった時から20年
※2020年3月31日までに不倫から20年が過ぎている場合は、改正前の民法が適用されます。改正前では除斥期間の経過を理由として、慰謝料を請求することができません。
改正前後で「請求できない」という結論は同じですが、理由が異なります。いずれにしても、「最後の不倫から20年経つと請求できなくなる」と理解しましょう。
<根拠となる条文>
第724条 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
1 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
2 不法行為の時から二十年間行使しないとき。
①と②をそれぞれ詳しく解説していきます。
1-2. ①不倫の事実と加害者を知った時から3年
不倫慰謝料の時効は、次の2つを知った時に3年のカウントが始まります。
・不倫の事実を知った時
・加害者が誰であるか(加害者の名前や住所)を知った時
たとえば、不倫の事実と加害者の名前・住所を知ったのが同じ日であれば、その日から3年です。
不倫の事実を知ったのが3年前でも、加害者の名前・住所を知ったのが1年前であれば、1年前から数えて3年が消滅時効の期間です。
そのため、既に不倫の事実と加害者の情報を知っている場合は、早めに慰謝料を請求しておかないと、請求自体が出来なくなってしまうため、注意が必要です。
1-3. ②不倫があった時から20年
最後に不倫があった時点から20年が経つと、加害者の情報を知らなくても、時効が成立して慰謝料を請求できなくなります。
例えば、最後に不倫があった時点から25年後に不倫に気づいても、もう慰謝料は請求できないということです。
1-4. 離婚慰謝料の時効は「離婚成立から3年」
不倫の事実と加害者を知った時から3年が経過していても、慰謝料を請求できるケースがあります。
それは、離婚慰謝料です。ただし、離婚慰謝料は配偶者に対してのみ請求可能で、不倫相手の方には請求出来ません。
離婚を理由とした慰謝料請求の時効は、離婚が成立した時から3年です。
不倫に気づいてから3年が経過していても、不倫が理由で離婚している場合は、離婚慰謝料を請求できる可能性があります。諦めずに一度弁護士に相談してみてください。
2.不倫慰謝料における時効の具体例
これまで説明したとおり、不倫慰謝料の時効は、「不倫を知った時から3年」と「不倫があった時から20年」のどちらが先に来るかで決まります。
しかし、実際には“自分の場合はどちらで計算するのか”が分かりづらく、個別事情によって判断が大きく変わることがあります。
ここでは、よくあるケースを例に、時効がどのように成立するのかを解説します。
ケース①:不倫を知った日から3年で時効になる場合
不倫の事実を知った日:2022年5月1日
加害者氏名・住所を知った日:同日
この場合、時効の起算点は 2022年5月1日。
→起算点から3年後の2025年5月1日 に時効が成立します。
ケース②:加害者の情報を後から知った場合(時効の起算点が遅くなる可能性あり)
不倫の事実を知った日:2020年1月10日
加害者の氏名・住所を知った日:2023年3月1日
このケースでは、時効の起算点は後から知った 2023年3月1日です。
→起算点から3年後の2026年3月1日 が時効となります。
「不倫の事実は知っていたが、相手の特定ができなかった」という方は少なくありません。
この場合どこが起算点になるかの判断が難しいため、弁護士等の専門家への相談をおすすめします。
ケース③:不倫から20年経っていたため、気づいた時には請求できない場合
不倫の最終日:2000年8月1日
不倫の事実を知った日:2023年9月1日
この場合、不倫の事実を知った時点で、既に不倫から23年経過しています。20年を過ぎたているため、原則慰謝料請求が出来ません。
3. 時効が成立するとどうなる?
時効が成立すると、請求する権利が消滅してしまうため、慰謝料の請求が出来なくなります。
ただし、加害者側が時効が成立している旨を主張しなければ、時効は成立しません。
逆に考えると、相手が時効を主張しない限り、請求が通るケースもあります。
本来は時効が成立している状況でも、相手が自ら慰謝料を支払う意思を示している場合には、法律上それを受け取っても問題はありません。
また、加害者が時効成立に気がつかないまま慰謝料の支払いを承諾した際は、たとえ後から時効に気づいても、原則として一度承諾した支払いを撤回することは出来ません。
そのため、結果として時効が完成した後でも慰謝料を受け取ることが出来るケースがあります。
なお、不倫慰謝料における時効については、以下のような裁判例があります。
消滅時効の成立が認められなかった裁判例
【東京地裁令和 6年 2月28日判決】
原告は、夫Aと被告の不貞関係について、令和3年8月16日に動画を発見したことで初めて具体的に認識しました。裁判所は、この日こそが民法724条の『損害及び加害者を知った時」に当たると判断しました。
被告は、原告が平成29年頃から不貞を疑っていたことを理由に、令和元年以前の性交渉分については時効が完成していると主張したものの、裁判所は次のように判断しています。
・指輪などの状況から、「疑いを持った」段階では、賠償請求が可能な程度には加害者を知ったとはいえない
・原告が動画で被告本人を特定できたのは令和3年8月16日であり、この日以降に初めて請求が可能になった
・したがって、加害者の特定が伴わない、疑惑の段階では時効は進行しない
以上から、消滅時効は成立せず、被告の時効主張は退けられました。
消滅時効の成立が認められた裁判例
【東京地裁令和 4年11月 9日判決】
原告は平成27年に不貞を知り、平成28年2月には被告本人と電話・メールで連絡が取れていたため、裁判所はこの時点で「損害と加害者を知った」と判断しました。
被告の勤務先や実家住所など、原告が後に把握した情報も、損害を知った当時の調査で把握し得たという認定でした。
そのため、不法行為の時効(3年)は遅くとも平成31年2月23日で完成し、被告が時効を援用した結果、原告の請求は時効消滅として棄却されました。
4. 時効を止める(中断する)主な方法
不倫慰謝料の時効は、一度進み始めると自然には止まりません。
ただし、法律上の手続きを踏むことで、時効の進行を止める(中断する)ことができます。
ここでは主な3つの方法を紹介します。
4-1. 内容証明郵便で催告する
内容証明郵便で慰謝料を請求(催告)すると、その日から時効の進行がいったん止まり、6ヵ月間は時効が成立しなくなります。
この期間に、まずは相手との話し合いでの解決を目指すことになります。
ただし、交渉が進まないからといって、再度内容証明を送っても、時効の猶予期間が更に延びることはありません。延びるのは6ヵ月のみです。
示談で話がまとまらない場合は、内容証明を送ってから6ヵ月の猶予が切れる前に、調停や裁判などの正式な手続きへ進む必要があります。
4-2. 調停や裁判を申し立てる
もっとも確実に時効を止める方法です。
裁判所へ調停の申し立て、もしくは訴訟(裁判)提起すると、時効の進行を止めることが可能です。
裁判を行い確定判決が出た場合や、裁判上の和解が成立した場合には、時効がいったんリセットされ、そこから新しい時効期間が進行します。この場合の新しい時効期間は10年です。
4-3.慰謝料の支払いを認めさせる
相手が「慰謝料を支払う義務がある」と認めた場合(=債務承認)、その時点で時効の完成は猶予されます。
さらに、慰謝料の支払いを正式に認めたことが確認できれば、時効が更新され、新しい時効期間が改めてスタートします。
債務承認自体は、口頭でのやり取りでも法律上は有効です。
ただし、後になって相手から「そんなことは言っていない」と争われるリスクがあります。出来る限り書面やメールなど、形に残る方法で確認しておくことが望ましいです。
<債務を承認したとみなされる主なケース>
・不倫慰謝料を支払う旨の約束をした場合
・配偶者または不倫相手が、不倫慰謝料の一部を実際に支払った場合
・不倫慰謝料の支払期限について、延長を求めてきた場合
・不倫慰謝料の金額について、減額を求めてきた場合
5. 時効が近い場合にやるべきこと
不倫慰謝料の時効が迫っている場合、時効を1日でも過ぎてしまえば、原則として慰謝料の請求ができなくなってしまいます。
慰謝料の請求権がなくなってしまう前に、次のポイントを押さえながら、早めに対応していく必要があります。
5-1.時効の起算点を正確に把握する
まずは、不倫を知った日、加害者を知った日、最後の不倫日などの事実関係を整理し、どの日が起算点となるのか確認します。
ここが間違っていると、本当はまだ請求できるのに諦めてしまったり、逆に「まだ間に合う」と勘違いしてしまう危険があります。
どの日が起算点になるかの判断は難しいため、早めに弁護士へ相談することをお勧めします。
5-2. 証拠は早めに確保する
不倫慰謝料を請求するためには、「不倫があったことを示す証拠」が不可欠です。
しかし、証拠を探しているうちに時効が成立してしまう可能性もあります。
また、時間が経つほど証拠の入手は難しくなってしまうため、不倫に気づいた時点で証拠は確保するのが望ましいです。
<代表的な証拠の例>
・配偶者と不倫相手とのメッセージや写真
・宿泊のレシート・予約履歴
・探偵の調査報告書
・不倫相手もしくは配偶者が不倫を認めるメール・LINE・念書・録音 など
最後の不倫から時間が経っている場合、比較的入手しやすいのは、不倫相手もしくは配偶者が不倫を認めるメール・LINE・念書・録音等、当事者の自白の証拠です。
不倫から数年経っていても、自白が得られる可能性はありますので、できるだけ早く動き、必要に応じて弁護士のサポートを受けながら証拠をそろえていくことをおすすめします。
5-3. 相手に連絡する前に弁護士へ相談する
時効が近い状況では、自己判断での対応が思わぬリスクにつながることがあります。
・相手とのやり取りの仕方によっては、時効のカウントが止まらず進んだままになってしまう
・内容証明を送付しても、手続きが不十分だと時効を止められないことがある
・必要な手続きを取る前に時間が過ぎ、請求そのものができなくなるおそれがある
時効が迫っている状況の場合は、わずかな時間差で結果が大きく変わります。
まずは弁護士に状況を伝え、どの手順を踏むべきかを確認することが重要です。相談することで、時効の成立を確実に防ぎながら、適切な流れで請求を進めることができます。
さいごに
不倫慰謝料の時効は、起算点の判断ひとつで結果が変わるため、とても慎重な対応が必要です。
相手とのやり取りを続けているうちに時効が完成してしまうこともあり、自己判断だけでは見落としが起きやすい場面です。
少しでも迷いや不安がある場合は、早めに弁護士へ相談することをおすすめします。
状況を整理し、どの手続きで時効を止められるのか、今どの対応を優先すべきかを丁寧にご案内いたします。
当事務所では、
・時効の見極め
・必要な証拠の整理
・内容証明の作成
・時効の猶予・更新の手続
・慰謝料請求の代理交渉
まで一貫してサポートしています。
不倫問題は一人で抱えるほど負担が大きくなります。まずはお気軽にご相談いただき、適切な進め方を一緒に考えていきましょう。
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