夫婦関係はどこから破綻?相手を信じて不倫した場合でも慰謝料は払う?
不倫相手から「夫婦関係はもう破綻している」「家庭内別居だから大丈夫」と言われ、関係を持ってしまうケースは少なくありません。特に、相手の話を真に受けてしまい、「破綻しているなら不倫にならないはず」「慰謝料を払う義務はないだろう」と考えてしまう人も多くいます。
しかし、夫婦関係の「破綻」が法律上どのように扱われるかは、本人の主観ではなく、客観的な事情がどれだけ揃っているかが基準になります。
そのため、相手から破綻していると言われていたとしても、慰謝料を請求される可能性は十分にあります。この記事では、夫婦関係の破綻とはどういう状況か、夫婦関係が破綻している状況で不倫をしてしまった場合の慰謝料の支払い義務はどうなるかを分かりやすく解説していきます。
目次
1.夫婦関係(婚姻関係)の破綻とは?
夫婦関係の破綻とは、夫婦としての実態が失われ、婚姻生活を続けることが著しく難しい状態をいいます。
単に気持ちが冷めている、ケンカが増えたといった主観的な理由ではなく、外から見ても夫婦関係が機能していないと判断できるような客観的事情が必要です。
そのため、「夫婦関係はもう終わっている」と当事者が感じているだけでは足りず、生活状況や行動から総合的に判断されます。
2.夫婦関係破綻と認められる条件
夫婦関係の破綻が認められるかどうかは、さまざまな事情を総合して判断されることが一般的です。
夫婦は法律上「同居」「協力」「扶養」の義務が定められています。
【民法第752条】
夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。
夫婦として生活するうえで、これらの義務を果たしておらず、回復の見込みがないと判断されれば「夫婦関係の破綻」と認められる可能性が高いです。
判断基準には、主観的及び客観的な要素があり、いずれかに該当し、それにより修復困難とみなされれば夫婦関係(婚姻関係)の破綻と判断されます。
①主観的な基準
夫婦間で「お互いに」婚姻関係を継続する意思がないことが明確になっているということ。
いかなる理由であっても、夫婦が双方で離婚を希望しており、既に離婚の時期等を話し合ったりしている場合は、夫婦関係が破綻していると認められる可能性が高くなります。
これは、どちらか一方のみが強く離婚を希望しているだけでは該当しませんので注意が必要です。
②客観的な基準
夫婦当事者の意思や気持ちではなく、長期間の別居等により夫婦としての共同生活の実態がなく、更に修復する見込みもないため、今後の婚姻生活の継続は困難であること。
民法752条のとおり、夫婦は同居をしてお互いに協力しながら支えあい生活しなければなりません。しかしながら、実際の夫婦生活において、明らかにこれらが機能しておらず、修復する見込みもない場合は、客観的にみて夫婦関係が破綻に至っているとみなされます。
3. どういう状況だと夫婦関係破綻に該当する?
夫婦関係の破綻は、民法が定める法定離婚事由に該当する場合には認められます。
どちらか一方のみが離婚の意思を有している場合で、話し合いでの離婚が難しい状況でも、法定離婚事由に該当する場合は最終的に離婚裁判でも夫婦関係の破綻が認められ「離婚判決」を得られることとなるのです。
【民法第770条】
・夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
1配偶者に不貞な行為があったとき。
2配偶者から悪意で遺棄されたとき。
3配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
4配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
5その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
・裁判所は、前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。
上記民法770条の中でも、1~4は具体的でわかりやすい事由となっていますが、「5その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。」というのは、抽象的でイメージし辛いと思います。
もちろん、状況次第ではありますが、具体的にどのような場合が夫婦関係の破綻に該当し得るのか、確認していきましょう。
3-1. 長期間別居をしている事実がある
別居は、夫婦関係が破綻しているかどうか判断する上で最も分かりやすい事情です。
特に、数年単位の長期間別居が続いている場合には、「夫婦としての生活が存在しない」と評価され、破綻が認められる大きな要素になります。
婚姻期間によって左右しますが、5年間以上別居期間がある場合は「長期間の別居」と判断され、籍は入っているものの既に夫婦関係(婚姻関係)が破綻していると認められやすいでしょう。
逆に、数ヶ月程度の別居や、ケンカして一時的に離れているだけでは“破綻”とは判断されにくい傾向があります。
特に一時的に実家に戻り別居状態にある場合等は、住民票を移しているケースも少なく、別居の実態を証明しにくいことから注意が必要です。
また、長期間別居をしていても「正当な理由」がある場合は、破綻に該当しません。
【正当な理由】
・仕事の都合での単身赴任
・ケガや病気による長期入院
・妊娠出産等による里帰り 等
3-2.DVやモラハラ等の不法行為がある
夫婦のうちどちらかが、DVやモラハラ行為を行っていることが判明している場合は、夫婦関係の破綻と認定されやすいです。
3-3.婚姻を継続できない重大な事由がある
夫婦がこれ以上一緒に生活することが難しいと判断される事情があれば破綻と認められる可能性があります。
・一方が家計を全く支えず家庭生活に参加しない
・お互いが婚姻関係を継続する意思を有しておらず、修復したいという希望も双方にない
・夫婦のどちらか一方が過度な宗教活動を行っており、共同生活を維持できない
・夫婦のどちらか一方が犯罪により服役することとなった
・過度なギャンブル行為により、生活が破綻した などが挙げられます。
3-4.価値観等の不一致
性格の不一致や価値観の違いにより、夫婦生活を維持できないほど影響が出ている場合も、夫婦関係の破綻と認められることもあります。
また、性の不一致も該当します。
どちらかが理由もなく性交渉を拒否している場合や、婚姻後に発覚した一方の性的異常、同性愛者であることが発覚する等の事情がある場合、破綻と認められやすいです。
3-5.家庭内別居は破綻に入る?
「家庭内別居」は注意が必要なポイントです。
もちろん、一緒に住んでいても「一切口も聞かずに顔も合わさない」「寝室は別」「食事も洗濯も全て各自で行う」「金銭管理も完全に別々」等徹底した家庭内別居状態を続けていれば、夫婦関係の破綻が認められることもあります。
ただし、会話がない・食事を別にしている・同じ部屋で寝ていない程度の場合は、それだけで破綻と判断されない可能性も考えられます。
家庭内別居は外から見えにくく、実態を証明しづらい特徴があるため、非常に判断が難しいのが現状です。
特に、未成年の子供がいる家庭では、会話がない、食事は別、寝室も別、といっても、子供含め家族で行事に参加していたり、子供を介して会話があったりするケースも多く、完全な家庭内別居をすることは現実的ではない為、夫婦関係の破綻とは認められない可能性も高くなります。
4. 夫婦関係が破綻していれば不倫してもOK?
結論からいうと、夫婦関係が破綻していることが認められれば、不貞行為(不倫)とは認定されない場合があります。
ただしこれは、客観的に見ても明らかに破綻している場合や民法が定める法定離婚事由に確実に該当する場合に限るという点が非常に重要です。
不倫相手から、「夫婦関係は破綻している」と言われていたという当事者の主観や説明だけでは、不倫の免責にはなりません。
ここから、不倫と慰謝料の関係をさらに詳しく見ていきます。
4-1. 不貞行為(不倫)とは
不貞行為とは、原則として、婚姻関係にある人がその配偶者以外の異性と性的関係を持つことを指します。
不貞行為(不倫)が、不法行為として慰謝料請求の対象になる理由は、その不貞行為が貞操義務違反にあたり、これにより夫婦の平穏な生活を送る権利を侵害されるからです。
そのため、不貞行為があった時点で相手の夫婦関係が破綻している状態だった場合は、不貞以前より法律上保護されるべき夫婦の利益が既に失われていたということとなり、不法行為とはみなされません。
4-2. 慰謝料を支払わなければいけないケース
・どちらかが一方的に「離婚したい」と思っていただけ
・相手の「夫婦関係はもう破綻している」という説明を鵜呑みにし、事実関係を確認せずに関係を続けた
・家庭内別居や別居だと聞いていたものの、客観的証拠がない
・離婚の話は出ていたものの、双方で離婚に合意できていない
不倫相手から「破綻している」「離婚したいと思っている」「子供が成人したら離婚する予定」等と言われていただけでは、夫婦関係の破綻には該当せず、慰謝料の支払い義務が発生してしまうこととなります。
実際に、以下のような裁判例も存在します。
【東京地裁平成22年4月15日判決】
被告は、原告の配偶者より「原告とその母親との共同生活に居場所がないうえ、原告の浪費癖が原因で離婚の意思を固め、離婚届も渡している。原告も離婚に同意している」と聞いていたほか、「寝室は別の家庭内別居状態で、夫婦の性生活もない」と説明をうけ、肉体関係を結びました。
そのため、不貞行為があった時点で原告夫婦の婚姻関係は破綻していたか、破綻していなかったとしても被告が破綻を信じていたことに過失はないため、慰謝料の支払い義務はないと主張しました。
しかし、原告及び原告の配偶者(被告の不貞相手)の陳述書や証人尋問の結果、不貞が行われた当時、原告夫婦の婚姻関係は破綻しているとはいえないとして、被告は150万円の支払を命じられています。
4-3. 慰謝料の支払い義務がないケース
以下のような客観的事情が揃っている場合には、破綻を理由に慰謝料が発生しない可能性があります。
・長期間(5年以上)の別居を継続していることが証明できる
・離婚調停を行っている
・DV・虐待など婚姻継続が困難な事情があり、その証拠等も入手している
・夫婦の双方が離婚意思を持ち、具体的に離婚時期等の取り決めが行われていた
これらの事情がある場合には、夫婦としての実態が完全に失われていたと判断されるため、不貞行為が成立しないケースがあります。
ただし、全てにおいて不貞行為がある前から、夫婦の状況が上記に該当していることが重要ですので、不貞が行われた後に、離婚調停を開始した等の状況であれば、慰謝料の支払い義務が発生する可能性が高いです。
不貞行為が行われるより前に、夫婦関係がどのような状況だったのかを証明できるかが非常に重要となってきます。
5. 夫婦関係の破綻を証明するためには
夫婦関係の破綻を証明するためには、本人の感覚や「もう終わっていると思っていた」といった主観的な説明だけでは足りず、客観的な事実が必要になります。
たとえば、長期間にわたり別居が続いていることを示す記録(住民票等)や、すでに離婚調停や協議が進められている状況があれば、夫婦としての生活が成り立っていないことを裏付ける材料になるでしょう。
また、DVや暴力の被害を示す診断書や、相談機関に相談した履歴が残っている場合には、婚姻関係の継続が困難であった事情として評価されやすくなります。
さらに、家庭内の状況が分かる写真や生活実態の記録、夫婦間で連絡がほとんど取られていない、修復に向けた働きかけが行われていないことが分かるやり取りの状況なども、破綻を示す手がかりになる可能性が高いです。
こうした客観的な証拠が積み重なって初めて、「夫婦関係はすでに実質的に終わっていた」と認められる可能性が高まります。逆に、相手から「破綻している」と説明されただけでは証明としては不十分で、慰謝料の免除に結びつくことはほとんどありません。
よって、実際に戸籍上夫婦である人と肉体関係を持つ場合には、本当に相手の夫婦関係は破綻しているのか、いざというときにはそれを証明できるだけの資料や証拠は入手できるのかをしっかり確認し、リスク管理は自己責任となります。
さいごに
夫婦関係の破綻は、本人の主観だけではなく、生活状況や行動、別居の有無などから総合的に判断されます。
そのため、相手から「破綻している」と言われていたとしても、それだけで不貞行為が成立しないとは限りません。 もしすでに慰謝料請求を受けている、あるいは請求されるかもしれない状況にある場合、
独断で対応してしまうと、支払う必要のない金額に応じてしまったり、不利な条件で示談してしまうリスクがあります。
また、独断で相手に「婚姻関係は破綻していたはずだから慰謝料は支払わない」等伝えてしまうと、即裁判に移行してしまったり、話し合いが拗れる原因となる可能性もあります。
不倫の慰謝料の請求を受けた場合は、まずは専門家に状況を整理してもらい、適切な対応方針を立てることが大切です。
「夫婦関係が破綻していると言われたけれど、支払い義務はあるの?」
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