不倫慰謝料の追加請求は認められる?示談書の落とし穴と交渉の進め方
「もう慰謝料は払ったのに、また請求が来た」
この状況は、精神的にも金銭的にも大きな負担になります。
しかも、相手の言い分が強いほど「また払わないといけないのかも…」と不安になり、冷静な判断が難しくなりがちです。
ただ、不倫慰謝料は“一度支払ったら必ず終わり”とも“追加請求が来たら必ず払う”とも限りません。
示談後の態様や、何より示談書の内容によって大きく変わります。
この記事では、追加請求が認められ得る場面・否定されやすい場面を整理し、追加請求されたときの正しい対応を分かりやすく解説します。
目次
1. 不倫慰謝料は「一度払えば終わり」なのか
不倫慰謝料の請求は、原則として不法行為(民法709条)を根拠に、配偶者の権利・平穏を侵害した精神的損害を金銭で賠償するものです。
そして、示談で金額を支払って合意書を取り交わした場合、その合意は「今回の問題について、これで終わりにする」という意味合い(清算)を持つことが一般的です。よって、きちんと示談書を交わしている場合、追何の理由もない追加請求は簡単には認められにくいです。
ただし、示談書があれば絶対に大丈夫とは限りません。
示談時点で想定していなかった事情が後から出てきたり、示談書の作り方が不十分だったりすると、追加請求が争点になることがあります。
一度、示談し慰謝料を支払ったとしても、示談時の状況や示談書の内容、そしてその後の行動次第では再度同じ相手に慰謝料を支払うことになることもあり得るのです。
2. 追加請求が認められる可能性があるケース
ここからは、追加請求が通る余地があると評価されやすい典型パターンを整理します。
重要なのは、示談の対象とされた不法行為と後から問題になっている不法行為が、「別件」となるのか、そして一度目に交わした示談書がどこまで有効かです。
2-1. 示談後も不倫関係が継続していた場合
示談後に不倫関係が続いていた場合は、明らかに「別件」となるため再度慰謝料を支払う必要があります。
示談で清算したのは示談成立日までの不法行為であり、その後も関係が続いているなら、示談後の行為は新たな不法行為として別途評価されます。
特に、示談成立時に相手夫婦が離婚しない場合、示談の趣旨は関係解消を前提に終結するものです。
にも関わらず裏で関係が継続していた場合、相手配偶者の精神的苦痛が増幅しやすく、請求側の主張も強くなりがちです。
また、示談書に接触禁止や違約金条項がなくても、不法行為があれば再度慰謝料の支払い義務は発生します。
2-2. 示談時後に新たな事実が発覚した場合
示談時に不貞期間や回数等不貞の態様を記載して合意した場合、後から、実際はもっと長期だった、回数が多かった、妊娠等の重大事情があった、などが判明すると、請求側は示談の前提が崩れたと主張して追加請求を試みることがあります。
とはいえ、新事実の発覚=追加請求OKとなるわけではありません。
示談書の清算条項が広く書かれている場合、原則としては清算が優先されやすい一方、事案によっては、錯誤等を理由に示談の有効性そのものが争点になることもあります。
つまり、追加請求と言うものの、そもそも「示談(和解)の効力をどう見るか」「前提事情の食い違いをどう評価するか」という形で、最初の示談自体から争いになることがあります。
2-3. 示談書に清算条項がなかった場合
清算条項がない示談書は、不完全な示談といえます。
清算条項は、「この件(今回の不倫)については、これ以上お互いに請求等はしない」と確認する条項です。
これがないと、示談で全てが清算されたのかが不明となり、請求側から「合意内容は当時の一部だけの合意で、残りは別だ」という主張をされてしまう可能性が発生してしまいます。
特に、金額だけを書いた簡素な合意書や念書の場合、実質追加請求が可能な状態での合意となってしまっているといえます。
2-4. 合意額が明らかに低額だった場合
合意額が相場からみて低額だったというだけで直ちに追加請求が認められるわけではありません。
示談は当事者の合意で成立するものであり、任意での合意であれば、裁判の相場と一致する必要はないからです。相場より低い額での合意もあれば、高い場合の合意でも、基本的には有効とされます。
ただし、合意額が極端に低く慰謝されたとはいえない金額である場合、かつ示談時に重要な事情が伏せられていた、強い圧力のもとで形式的に署名した、前提事実が大きく誤っていた等が重なると、請求側が「そもそも適正な合意ではない」と主張して争いに発展することがあります。
合意額のみで追加請求とはならずとも、他の要因と合わさる ことで追加請求が有効となってしまうこともあり得るため、示談の際には慎重に行動しなければいけません。
3. 追加請求が否定される可能性があるケース
示談書の中身や事情によっては、請求が通りにくい(あるいは争って止められる)ケースもあります。
3-1. 清算条項が明確に定められている場合
清算条項が「本件に関し、今後一切の債権債務がない」など広く明確に書かれている場合、原則としては追加請求を封じる効果が期待できます。
もちろん万能ではありませんが、少なくとも合意締結時点までの不法行為に関する請求を後から蒸し返すことは難しくなりやすいです。
請求側が追加請求をするなら、示談後の新たな不法行為や示談の取消し・無効を持ち出す必要が出てきます。
3-2. 実質的に同一の不法行為と評価される場合
争点になりやすいのが、「示談後に少し連絡を取っただけ」「たまたま会っただけ」といったグレーな状況です。
請求側は関係継続に該当すると主張し、被請求側としては連絡接触はあるものの、不貞行為はないと反論する構図になりやすいです。ここでは、行為の態様・頻度・肉体関係の有無・夫婦関係への影響などから、新たな侵害として独立に評価できるかが見られます。
つまり、示談後に不貞相手と連絡接触があっても、それが「追加請求に値する新たな不法行為」とまでは言えないと主張できれば、追加請求は否定方向に進みやすくなります。
ただし、注意したいのが、示談の際に連絡接触についての違約金条項が設けられている場合については、連絡をとっただけであっても、違約金の支払い義務が生じます。 それは「追加請求」ではなく、示談書に基づいた正当な請求となりますので、示談書の内容に違約金条項がある場合は、抵触しないようにしましょう。
4. 示談書の内容がすべてを左右する
追加請求の可否を左右する中心は、結局のところ示談書です。示談書は、当事者が紛争を終わらせるために互いに譲歩して結ぶ契約(和解)であり、その文言が非常に大切です。
4-1. 清算条項とは何か
清算条項は、当事者間で「この件についてはもう終わり」と確認する部分です。
今回合意した不貞慰謝料の以外に、この不貞行為では債権債務関係がお互いに存在しないことを確認する内容の条項となります。
この条項が入ることにより、話し合いは完全に終結したことを示すことに繋がり、過去の同一の不貞行為についての再請求や追加請求の可能性を減らすことができますし、再請求されても、跳ねのけることが可能となります。
示談するにあたり非常に重要な条項です。
4-2. 文言によって結果が変わる理由
清算条項があっても、書き方で該当する範囲が変わる可能性もあります。
たとえば清算条項の対象が「本件不貞行為に関して」なのか、「本件に関し一切」なのか、「○年○月○日~〇年〇月〇日までの行為」なのかで、後から評価が割れることが考えられます。
たとえ清算条項がきっちり入った示談を交わしていたとしても、「○年○月○日~〇年〇月〇日までの行為」と書かれている中、もし記載の年月日に含まれない不貞行為の事実が発覚した場合、発覚した新たな不貞行為については清算されていないこととなります。
さらに、接触禁止・違約金・口外禁止・求償権放棄など、関連条項についても、書き方次第では再請求を可能にも不可能にもしていきますので、示談書の一つ一つの条項の内容はしっかり確認し、できるなら弁護士のリーガルチェックを受けることをおすすめします。
4-3. 弁護士を入れずに作った示談書のリスク
当事者同士で作った示談書は、法的視点が漏れている可能性があり危険です。
下記のような問題が起こりやすい点で、注意が必要です。
・文言が曖昧で清算の範囲が不明
・将来のリスク(再請求・違反・口外・求償など)を想定していない
・署名時の経緯が荒く、後から「無理やり書かされた」と争点化しやすい
特に、示談が終わったはずなのに、また請求相手から連絡や請求がきたという相談の多くは、示談書が曖昧な内容になってしまっていることが多々あります。
5. 追加請求されたときにしてはいけない対応
追加請求が来たとき、焦って動くと本来は争えたはずの事案でも、争えなくなるかもしれません。
避けたいのは次のような対応です。
①示談書を確認せずに、認める・謝る・払うと約束する
②感情的に反論して、相手を刺激する(脅し返しなど)
③無視して放置する(相手が本気なら手続が進み、その後の選択肢が減ります)
④「不貞相手の言うとおり婚姻関係は破綻していたはず」など、根拠のない主張をしてしまう
冷静な判断や対応が難しい場合は、自身で対応せず、弁護士に相談してみるのがベストです。
不利な状態になる前に、最善策を導いてもらえる可能性が高いです。
6. 追加請求を受けた場合の正しい対応の流れ
追加請求を受けた場合、感情的に対応するのではなく、順を追って整理することが重要です。
対応の順序を誤ると、本来争えた点まで不利に扱われる可能性があるため、冷静な確認作業が不可欠です。
6-1. まず示談書を精査する
最初に確認すべきなのは、過去に締結した示談書(合意書)の内容です。
特に重要なのは、清算条項の有無とその文言です。
「本件に関して今後一切の請求をしない」といった包括的な条項があるのか、それとも特定の期間や特定の行為のみを対象としているのかによって、追加請求の可否は大きく左右されます。
また、次のような点も確認が必要です。
・対象となる不法行為の期間や内容がどこまで特定されているか
・接触禁止条項や違約金条項が定められているか
・将来請求に関する明示的な規定があるか
・合意の解除条件や例外条項が存在するか
これらを丁寧に読み解くことで、今回の追加請求が示談の対象外といえるのか、それとも示談後の新たな不法行為として主張されているのかが見えてきます。
示談書の文言は一見似ていても、解釈によって結論が異なることがあります。
そのため、自己判断せず、専門的な視点で確認することが望ましいといえます。
6-2. 請求の根拠を確認する
次に重要なのは、相手がどのような法的根拠に基づいて追加請求をしているのかを把握することです。
【考えられる請求原因】
・示談後も不倫関係が継続していた
・示談当時には知られていなかった事実が後に発覚した
・示談書に清算条項が存在しない、あるいは内容が限定的であることから追加請求
・示談自体の有効性(錯誤・詐欺など)自体を問題にしている
主張の内容によって、取るべき対応は異なります。
請求の趣旨や理由を曖昧なまま交渉に入ってしまうと、相手の主張を前提に話が進んでしまい、不利な立場で合意をしてしまうおそれがあります。
まずは「何を理由に、いくらを、どの範囲について請求しているのか」を明確にすることが出発点です。
6-3. 減額交渉や争うという選択肢
追加請求を受けた場合、対応は「全額支払う」か「拒否する」かの二択ではありません。
示談書の効力を前提に請求を退けることが可能な場合もありますし、仮に示談後の事情に一定の問題がある場合でも、請求額の妥当性を争い、減額交渉を行う余地があることも少なくありません。
不倫慰謝料は、婚姻関係への影響、不貞行為の期間や態様、当事者の対応など、さまざまな事情を総合して判断されます。そのため、相手が提示した金額が直ちに妥当であるとは限りません。
もっとも、既に一度示談をしている場合、交渉の進め方や主張内容次第で結果が大きく左右されることもあります。早い段階で法的見通しを確認し、対応方針を定めてから行動することが、過度な負担を避けるためには重要です。
7. 追加請求されないための対策
不倫慰謝料の追加請求トラブルは、一度解決したはずの問題が再燃するという点に大きな精神的負担があります。
こうした事態を防ぐためには、最初の示談段階で将来の紛争リスクを見据えた対応をしておくことが重要です。
7-1. 示談書(合意書)を適切に締結する
まず前提として、示談は必ず書面で行うべきです。口頭での約束やメッセージのやり取りだけでは、後日、合意内容を巡って争いになる可能性が高まります。
示談書では、単に金額や支払期限を定めるだけでなく、「どの範囲の不法行為を対象としているのか」「今後の請求をどう扱うのか」といった点を明確にしておく必要があります。
特に清算条項の記載内容は極めて重要であり、本件に関して今後一切の請求をしないことを確認する条項があるかどうかによって、追加請求の可否は大きく左右されます。
将来の紛争を予防する観点から、内容が十分に整理された適切な示談書を交わすことが最重要事項です。
7-2. 示談の法的な意味を理解しておく
不倫慰謝料の問題は、不法行為に基づく損害賠償請求の問題であり、示談は当事者間の和解契約として法的効力を持ちます。しかし、示談が成立したからといって、あらゆる可能性が完全に遮断されるとは限りません。
示談の効力は、合意の対象とされた事実関係や文言によって決まります。
どの期間の行為が対象なのか、示談後の行為はどう扱われるのか、将来請求を明示的に放棄しているのかといった点が明確でなければ、後日争いが生じることもあります。
したがって、示談書に書かれた内容の意味を正確に理解しないまま合意をしてしまうと、後から思わぬ形で責任を問われる可能性があります。
法的用語等わからない内容があった場合、そのまま示談せず、必ず確認し理解してから対応することが大切です。
7-3. 示談交渉は弁護士を通すことが望ましい
追加請求トラブルの背景には、当事者同士で急いで示談をまとめた結果、内容が十分に整理されていなかったという事情が多くあります。
当事者間では感情が強く働きやすく、条項の文言や将来リスクまで十分に検討することが難しい場合も多いのです。その結果、「とりあえず終わらせる」ための示談になってしまい、後日再び問題が表面化することがあります。
弁護士が関与することで、合意内容の法的な整理、清算条項の適切な記載、将来の紛争を想定した条項の検討などが可能になります。また、過度な請求に対して冷静に対応し、妥当な範囲での解決を図ることもできます。
一度支払ったはずの慰謝料をめぐって再び紛争が生じることは、精神的にも経済的にも大きな負担になります。だからこそ、最初の段階で適切な手続きを踏むことが、結果的に最も安全な選択といえるでしょう。
まとめ
不倫慰謝料は、「一度払ったから絶対に安心」と言い切れるケースばかりではありません。
示談後に関係が続いていた、新しい事実が見つかった、示談書に清算条項がない等の事情が重なると、追加請求が現実味を帯びてしまいます。
一方で、追加請求が来たからといって、必ず再度支払う必要があるわけでもありません。示談書の文言や、示談後の事情が「新たな不法行為」と言えるのか等を冷静に整理すれば、請求を抑えられる(あるいは争える)可能性も十分あります。
ただし、相手に言われるがままに対応したり、示談書を確認しないまま発言してしまうと、本来は争えたはずの点まで不利に固まることがあります。
「これって追加で払う必要ある?」「示談書の書き方が悪かったかも」「示談後のやり取りがリスクになっている?」少しでも不安があるなら、自己判断で動く前に一度、専門家に状況を相談してみませんか?
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